« 石の街、檸檬の国 ~南イタリア旅行記 その2 水牛 そしてレンタカーの悲劇その2~ | メイン | 石の街、檸檬の国 ~南イタリア旅行記 その4 世界遺産アルベロベッロ トゥルッリ~ »

2014年6月 4日 (水)

石の街、檸檬の国 ~南イタリア旅行記 その3 石の街 サッシ 事件~

Google Mapを頼りに、ここ、というところを山手に曲がっていく。

なんとなく、ここを登っていけば、そのまま世界遺産 サッシ(sassi)に入っていくのだろう。なぜなら世界遺産なのだから。それはもうダーん!という感じのはずだ。

・・・こういう感覚は日本だけなのか?ほら、世界遺産に登録されたら、周辺が世界遺産フィーバーに湧きまくるじゃない?石見銀山とかもそうだし。アクセスもいろいろ考えられたりするよね。日本だと。

いやはや、坂を登りきったあたりから、普通に街。というか普通の街。

普通といってもイタリアの街なので、狭い道路に路上駐車がずら~っと。

ちなみに、イタリアでは日本のパーキングチケット的な駐車可能エリアがあるのだけれど、それが必ずしも広い道ではなかったりするし、そういうエリアでなくても路上駐車がびっしり、というのがかなり一般的なようだ。

ここまで、すでに250~260kmほど走っており、朝の事故、行く方は楽とはいいながらも、時差による睡眠不足、何より緊張しっぱなしの運転での疲労もピークに達してきている訳だけれど、その状態でこれは...というような道だ。

もっとも、これがこのあたりでは普通なのではあるけれど、まともに街の中を走るのがここにきて初めてだったため、その緊張感は計り知れない。Jだって、朝のことがあるから、右に寄ってしまうことについて、やはり神経を使っているようだ。

Googleマップの指示に従いつつ、道を間違え、やり直し、狭い交差点を90度以下の角度で曲がり下り坂に入る...と...

P5010119_r突然現れたのは、斜面を覆う古びた石とも岩ともつかぬ...けれどそれは確かに家がひしめき合っている。

確かに、イタリアは古い街がそのまま残っているので、石造り、レンガ造りの家が多いのだけれど、ここは少し様相が違う。

その風景に見惚れて、思わず道路を右寄りに走って...前から車が来て驚く。いかんいかん。

石畳の道路を下っていく。サッシは谷の左右の斜面に街が広がっていて、一番谷の底には道路がある。ここまで到着した。

さて、ホテルはどこ?Googleマップはホテルらしきところを指しているが、右も左も同じような風景で、ホテルがどこか、さっぱりわからない。

P5010072_r

P5010074_r

P5010078_r

とりあえず、ホテルらしきところが見えるまで、緩やかな登りの道を進んでみる。

つまりは、上の真ん中の写真の真ん中の道だ。

すると、だ。どんどん道が細くなる。いや、確かに上から車は降りてきているから、上に何かがあるはず。道が抜けているのか?駐車場でもあるのか?

しかし、路上駐車の車をよけて進むと、切り返したくなるような細い道だ。

くどいが、進むほど道が細くなる。

僕は釣り師で、かつ地磯師なので、ときどきこういう経験をする。

あのあたりの磯に出たい。そうするとこの道を進めば良さそうだ、と進んでいくと、だんだん道が細くなって、揚句行き止まりになり、長い距離、バックで戻らないといけない羽目になったりするわけだ。長距離をバックするのは、結構しんどい。別にバックするのが苦手という訳ではないけれど、あまり長い距離を進んでいると、首は痛くなるし、気分が悪くなってくる。

さて、このフォード。左ハンドルという事実は僕に車の運転の自由度をかなり奪っていて、しかも無駄にでっぷりとしている。

これ以上進んで、あとでこの両脇を石の壁に挟まれた道をバックして...しかも道は微妙に曲がっているし...引き返すのは、想像するだけで気分が悪くなる。

戻ろう。まずは車を停めて、ホテルが本当にこの上にあるのか?確認してみよう。

しかし、細い道をそこそこ進んでいる。バックするしかない。う~む...

ちょっと想像してみてほしい。両脇は石の壁(家)だ。道は緩やかに円弧を描いている。しかも路上駐車がある。怪訝な顔でこちらを見ている人がいる。

左ハンドルの車でバックするのが、これほど感覚が違うとは思わなかった。

どうにも思うように車が操れず、壁に寄ってしまう。こりゃいかん、と、ちょっと前に出て、少しハンドルを切って、慎重に下がる。

こんなにドキドキしながら運転しているのに、左に路上駐車があるところで、右にトラックをとめて作業しているバカ...あ、失礼。この時点での僕の価値観です...がいる。もう涙目になりそうだ。

どうにも車幅的に抜けられない。どうしてもドアミラーどうしが当たってしまいそう。仕方なく、窓をあけてドアミラーを倒し(電動格納ミラーじゃなかった)、右側のドアミラーがトラックに当たらないよう注意しながら、ギリギリ抜ける。ボディを当てないように、車全体をそこから抜く。

Jは感心していた。褒めてくれた。それはいいが...疲れた。

一台だけ車を停めれるスペースを発見したので、最後の力を振り絞って、そこにバックで車を入れる。やれやれ。

しかし、ここに車を停めていいのかどうかが分からない。

二人して車を離れるのも心配なので、Jにホテルを探してきてもらうことにした。車を停める場所も聞いてきてもらう。

Jは、先ほど立ち往生しかかった道を登っていく。雨に濡れた石畳の道は滑りやすいので気を付けて...

その間、周辺を散策する。

P5010086_r

P5010088_r2

なんとも雰囲気のある街だ。

ちなみにこのサッシは、決して明るい歴史を抱えている街ではない。

サッシとは、石とか岩を表す言葉らしい。イスラム勢力に追われた修道僧がもう8世紀には隠れ住んでいたとか。その後、小作農家が住んでいたが、人口増加により衛生状態が悪くなり、たくさんの死者を出し、結果、この街は捨てられ、廃墟となった。

写真では、きちんとした石造りの家に見えるが、これは前面側だけで、家の中に入れば、そこは石灰岩の浸食によりできた洞窟だ。洞窟であるため、暑さ寒さには強いのだろうけれど、採光性が悪い。もともと住居として設定されている家は光が中まで届くようだが、人口増はこれ以外の洞窟にも人を住まわせ、それが衛生状態の悪化につながったとのこと。

廃墟となったこの街が、文化的資産価値を認められ、世界遺産に登録された。かつての廃墟は一大観光地となったわけだ。(一部Wikipediaで後日調べ)

今日泊まろうとしているホテルサッシは、まさにその洞窟住居に泊まることができる、この世界遺産の中にある唯一のホテルらしい。

それにしても帰ってこない。

30分以上は待っていたと思う。

ようやく、あれ?と思う方向からJが現れた。

なんでも、思った方向にホテルはなくて、あちこちで訪ねて、随分探し回って、ようやくホテルを見つけたそうだ。ホテルはあの道の上ではなくて、今車を停めているところから少し下ったあたりから、この道に直角に上がっている石の階段の上にあるらしい。

P5010091_r2つまり、この階段の上だ。

ホテル、っていうからには、車寄せくらいあるのかと思ったら、イタリアはだいたいそういう常識は通用しないようだ。そもそも平地がないから、なのか?

スーツケース。でっかいの2つ。この階段を持ってあがれということのようで...

車を停めているところは、居住者?用か何からしく、ここは停めてはダメとのこと。路上駐車スペースを見つけて停めるか、少し下った街の外れに空き地的な駐車できる場所があるから、そこに停めろ、とのこと。

サービス悪いなぁ...

ともかく、石畳なので、普通の道の上もスーツケースはごろごろとスムーズには動かない。一旦、階段の下あたりに無理やり車を停めて(ちょっとだけなので許してね)、スーツケースを2つ。ほら、俺は男だからね。それを抱えてえっちらおっちらと階段を登る。休憩。登る。

すると、唐突に道のわきの扉を指して、Jが、ここ、という。

周辺の住居やらなにやらわからないが、そういうのとまったく違わず、小道の脇にある普通の扉だ。

ホテルというと、ロビーがあって、そこを通って部屋に行く、というようなイメージを持ってしまうが、ここはこういう昔の洞窟住居をホテルの部屋として改装して、そのまま提供しているようだ。

いかめしい鍵で、いかめしい扉を開けて中に入ってみる。

P5010094_rこんな部屋だ。

壁はそのほとんどが石灰岩の地肌だ。感動。すごいな、これは。

ひとしきり部屋の中を見て、触って回って、とりあえず車をちゃんと駐車しに戻る。

大した距離ではなかった。少し下ったところに舗装もされていない少し広いスペースがあり、車が何台か停められている。

車を停める。

正面眼下には、深い谷が刻まれていて、その底辺に川の流れがある。谷の反対側の頂付近には、山賊でも住んでいそうな、もっと荒々しい洞窟住居が見える。あそこは廃墟なのだろう。

P5010069_r来た道を戻り、部屋に着く。

チェックインの際、パスポートをフロントに預けないといけなかったらしく、僕のパスポートがまだ出せていないので、パスポートをもってJと二人でフロントに向かう。といっても、外の細い道をさらに少し登り、ようやく、ホテルサッシの看板と出会う。

P5010115_rこの門を抜けて、階段を降りると、そこがフロントだ。

P5010118_r雰囲気、いいね。

P5010126_rパスポートを預ける、というのだけれど、普通コピーとったりするだけじゃないのかなぁ、と思ったりする。

預けてしまうと、滞在中はパスポートを持っていない状態になるわけだから、外国人観光客としては不安だ。しかもいい加減な...らしい...イタリア人だし。

ともかく、パスポートを渡し、Jは周辺のおすすめのレストランの場所を聞いている。

フロントのお姉さんはベジタリアンらしいが、一応、ここと、ここと...と進めてくれるお店のうち一つに決めて、フロントから予約を入れてもらう。

部屋に戻る。

ふぅ、疲れた。

インパクトがあって面白い部屋だが、やはり暗いし、通気性が悪く、少し埃っぽく、湿っぽい気がする。

そんなに高いホテルではないのでやむを得ない。

きちんとしたホテルに泊まりたい場合には、あまりお勧めしない。サッシの上のあたりには、三ツ星、四つ星のりっぱなホテルがあるので、そちらの方がいいかも。ただ洞窟住居はこのホテルサッシでしか体験できない。

利便性がよい、とはいえないけれど、なかなかいい経験ができたと思っている。

それにしても、イタリア...だけじゃないな...海外のコンセントって、どうしてこうもいい加減なのだろう?日本では、どんな古いホテルや旅館でも、コンセントにプラグを差せば電気は来る。今回の場合、Wi-Fiとiphoneの充電は最優先事項だ。

3か所ほどコンセントがあるのだけれど、普通に差しても電気が来ない。

しかも、差し込みがゆるゆるで、差しても抜けてくる。イタリアのプラグ形状は2本ピン。日本のような平たい向かい合う2枚の板ではなくて、丸い2本のピンが日本のプラグの板の幅より広い幅で立っている感じだ(伝わるかな?)

プラグ変換コネクタを使って差すのだけれど、どうにも落ち着かない。なんとかだましだまし、プラグの下に台を置いて抜けないようにしながら、2か所では充電が開始できた。

さて、食事に行こう。

ホテルとは谷の反対側の斜面にあるらしい。OSTERIA PICOという店だ。

少し周辺を散歩しながら、レストランに向かう。

Jがホテルを探しながらさまよった道を歩く。結構遠くまで..一番上まで歩いたんだなぁ。上に行くと、お土産物屋などが並んでいて、普通の小さな観光地のような雰囲気だ。大聖堂もある。広場がある。

雨の後なので、石畳が少し滑る。気を付けて...

レストラン方向に下る。その事件が近づいてくる。

なだらかな下り坂を進む。レストランの方向にいくには、その道から谷の下に向かう細い階段を降りていくと近そうだ。その階段を降りると途中、石をくりぬいたようなアーチ、いやトンネルを抜ける感じだ。

雨の後なので...

さて、少し調子に乗った僕は(だいたい調子に乗るとろくなことがない)、この階段とトンネルを歩いて降りる様子をiphoneの動画で撮影しようと、左手にミラーレス一眼カメラを、右手にiphoneを持って撮影しながら降りていた。

そう、勘のいい方はもうお分かりですね。

このiphoneの動画は、永久保存版になります。ここでお見せできないのが残念。滅茶苦茶臨場感あふれる映像となっています。

階段をおり、踊場にあるレストランの前を通って、再び階段。トンネルになっているので薄暗い。足元は濡れている。

急に映像が躍り、暗転する。暗い天井が映っている。「きゃ!」というJの声が入っている。レストランから飛び出てきたおじさんの声も。大丈夫、と見栄を張る僕の声も。

つまり、すべって尻餅をついた。

お尻を強打。左手、つまりカメラを持っていた手は肘を強打。そして小指から血が滴っている。ここも打撲だ。動かしてみる。動く。ただしびれて感覚がない。

カメラは?背面の液晶画面がグシャっとなっている...が、よく見ると、これは表面の保護フィルムがグシャっとなっているだけで、液晶自体、またカメラ本体にも奇跡的に傷がついていない。つまり、小指でカメラをガードしたんだな。

このあとカメラが使えないとなると、かなりもったいない。折角のイタリアだ。

ちょっとほっとして、電源を入れてみる。電源は入るが画面は真っ暗。げ...壊れた??

ともかく、お尻は痛いし、肘も痛い。

これを書いているのは6月4日。この事件は4月30日だから、すでに1ヶ月以上経っているのだけれど、実はまだ左肘をテーブルについたりすると、イテッっというくらい痛い。かなり収まっては来たけれど、相当ひどい打撲だったようだ。

レストランに、できるだけ何食わぬ顔で入り、トイレで負傷した左の小指を洗う。

血は止まってきた。こちらは大したことはなさそうだ。

しかし、病院に行かないといけないようなことにならなくて、本当によかった。

ここでの食事は...正直あまり覚えていない。ショートパスタを食べたと思う。そのほかいろいろ食べたはず。iphoneにはここの食事の写真もあって、何か説明を聞いたし、何か美味しかったものもあったような気がするけれど...

それにしても、振り返ってみると、なんともドン臭く、また、なんとも奇跡的(に大きな問題にまでは発展しなかった)な、そしてなんとも事件だらけの一日だったのだろう。

狭すぎる、窮屈すぎるバススペースで、あちこち身体をぶつけながらシャワーを浴びる。

そうして、サッシの遅い夜は更けていく。事件は事件を呼ぶ。これだけいろいろあって、それでも悲観的な気分にならず、また大事に至らなかったのは、陽気な雰囲気を崩さなかったJのお蔭かも知れないね。

明日は平和でありますように...

to be continue...






コメント

コメントを投稿