羊の国でニジマスと...ニュージーランド旅行記その6 ~レインボー!!~
いったん、フィルの経営しているB&B、つまりベッドアンドブレックファーストに立ち寄って、トイレを借りる。
ニュージーランド南島、カンタベリー地方の雄大な山のなかに宿泊施設を構え、冬はスキー、夏は釣りやトレッキングのガイドをしている。なんとも幸せな人生だよなぁ。
シーズンオフなのか、施設自体はちょっと掃除が必要そうだったけれど、WEBページを見る限り、シーズンになれば綺麗にしているんだろうな。
そこから、一路、ポイントを目指す。
日本の渓流とはまるで雰囲気が違う。
これなら確かにフライも投げやすいだろうな。日本のような木々が生い茂った渓流だと、なかなかバックキャストできないだろうし。
もちろん、本流で釣ればいいんだろうけれど。
そして、リバーへ。
しばらく歩く。
「待て!」とフィル。
「あそこにいる!」と。
見えるか?と聞かれるが、当然見えない訳がない。
こちとら何年海を、海の中をのぞき続けてきたか。
立派な魚体の影が見えている。
ポイントに上流から近づくな。魚は常に上流に頭を向けているから気づかれる。
下流から回り込んで...
フィル、大丈夫だよ。魚の習性もよく知っているよ。
ポイントの下流側に立ちこみ、アップストリームキャスト。魚の鼻先へ上流からフライを流し込むわけだ。
フライはレイクでのドライフライから、シンキングタイプの川虫を模したようなものに交換され、渓流の脈釣りで使うような毛糸を目印にリーダーに結び付ける。
慌てるな。
いや、慌てるよな。もしかしたら今日唯一のチャンスかも知れないんだから。
こんなサイトフィッシングがそうそうできるとも思えない。
ラインを下流に流して、張って、キャスティングを始める。
慌てるからうまくいかない。
冷静に、冷静に...念じる。
慌ててシュートするなよ。じっくりラインを伸ばして、十分上流に落とすんだぞ。
・・・失敗。
・・・また失敗。
・・・行った!が、流す筋が違う。
・・・あ、慌ててラインが水面を叩く...
警戒心抱かれたら終わりじゃ...
大丈夫かな。
何度目のトライだろう...
今度こそ筋に入った...と思ったら、目印が動く...アワセ!グンっとロッドが引き込まれる。
フィッシュ!(と、心の中で)
猛然と、まずは上流に向かって走る。グラス比率の高い柔らかいロッドが絞り込まれる。
と思ったら、今度はさらに猛然と下流に向かって走る。走る。走る。
ラインを手繰ってファイトしようとしたら、リールファイトをしろ、とフィルの指示。
・・・う~む、三平はリール使ってなかったがなぁ。
などと考えている余裕がないくらいの引きだ。
どうも、このフライリールはドラグを内蔵しているらしく(ここまで気づいていなかった)、フィルはラインブレイクを避けるため、ドラグを効かせて魚を走らせて、弱らせろ、と言っているようだ。
任せて!
・・・といいたいのだがとっさに英語も出ないし伝わらない。
魚を掛けてしまえば、実はさほど慌ててはいない。何せシモリも藻場もない浅い川だ。
存分に走らせればいい。
が、どうもやっぱり慌てていると思われているのか、僕が左手をロッドに添えようとすると、どうも僕がリールを巻こうとしているのと勘違いしているようで、左手を出すなと指示が来る。
う~む、僕の磯竿でのロッドワークは基本両手(普段は左で竿をもって、右手は竿を右に倒すときはリールシートより30cm上くらいを、左へ倒すときはロッドエンドに添えている)なので、片手でのファイトは馴染まないだけなんだけどなぁ。
自由にやらせてもらいたいが、まぁ仕方がない。
そう、魚がどんどん走るから、こちらも川岸にあがって魚を追いかけるように走るしかない。
10m、20mは走る。面白い!
そして、至福の時は、そろそろ終盤に差し掛かる。
アルビノだろうか。白色の魚体に婚姻色を浮かび上がらせた、60cmは越えているだろうレインボートラウト。
下あごが出っ張り、いかつく、そして美しい。
自然に顔が緩んでくる。
まだ、アドレナリンが出ている。ドキドキする。
フィルに渡されたリストバンドのようなもの。これを濡らして、それでレインボーを掴む。
キャッチアンドリリースが基本のこの国では、やはり魚をちゃんと気遣っているね。
日本の形ばかりの放り投げるような似非キャッチアンドリリースとは違う。
こんな小さなフライがロマンを運んでくれた。
興奮もまだ冷めぬ中、リバーサイドトレッキング、さらにリバーをウェイディングして渡ったり、先へ進む。
流れが速いので、足を取られそうだ。
Jはフィルに助けてもらいながら着いてきている。
リバーではルアーでは釣れないのか、またルアーを投げてしまったらフライはできないだろうから、そのためか、基本的に僕だけが竿を振っている。
なので、Jにはただのトレッキングになっている。
いくつか指示されたポイントにフライを投げてみるが、反応がない。
一度車に戻り、移動する。
今度は少し狭い川だ。
立ち込んで、ロッドを振る。振る。振る。
腕がもうパンパンになっている。何せひたすら何度も何度も振り続けるのがフライのキャスティング。ハードだ。
シュートしようとすると、どうしても力が入って、ロッドが後ろに倒れてしまい、ラインが力を失う。
アップ、ダウン、アップ、ダウン、アップ...シュート!
フィルの声。そう、上げる、ロッドはイメージとして直角上方向に向けるくらいで止める。
シュートはダウンのスピードを少し上げるだけ。アップを後ろに倒してはだめ。
ああ、楽しかった。本当に楽しかった。またいつか、こんなフィールドでロッドを振ってみたい。
いや、みたい、じゃなくて、ロッドを振りに行けばいい。何も難しいことじゃない。
自然の造形。
ここへいつか帰る?いや、もっと別の新しい景色を見に行こう。
竿を振れるなら、そこでも振ってみよう。
ああ、本当に楽しかった。
ありがとう。
...to be continue...